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私が生まれ育ったのは、九州の海峡の町だ。
港に立って対岸を見ると、すぐそこに本州が見える。 かつて港町として栄えていたはずのその町は、 私が成人する頃には、 唯一あったデパートはつぶれ、 アーケードのある商店街には空き店舗が目立つようになっていた。 同じ市内にある大きな製鉄所は縮小を決め、私は実家を出て東京に定住することを決めた。 その頃。 金村信洋という男がいた。 大学の映画研究会に入ったのをきっかけに自主映画を撮るようになり、 二十歳の時に映画祭に出て大賞を受賞。 将来を期待されながら、翌年、海に転落して死亡。 彼が残したカメラのフィルムには、海の映像だけが写っていた。 ———— 俺が、金村信洋やなかったら、どうやった? 俺の名前が、金に村っちゅう作られた名前やないでから、 本当の、昔っからの名前やったら、どうやった? あれから約二十年。 「海鬼灯—うみほおずき—」 逝ってしまった男と、残された者たちの、物語。
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